こんにちは、さち です。
最近、スマホの充電機器を買おうと思うと、「Quick Charge 対応」とか「PowerIQ 対応」とか色々な給電(充電)の規格が書いてありますよね。
何となく、充電が早くなるんだろうとは思いますが、よく分からない。実は、その規格が自分のスマホに合っていなくて、無駄に高いものを買ってしまっている場合も……。
そこで今回は、多すぎてワケが分からない USB の給電規格を、調べてまとめてみます。
まえおき
これから紹介するすべての給電規格には、前方/後方互換性があります。
給電規格の種類は色々あって複雑ですが、同じ規格内であれば新旧のバージョンが入り混じっても、古いバージョンとして動作します。
前方互換性
例えば、USB「3.0」の機器を、「2.0」の USBポート に挿し込んだ場合、USB「2.0」として動きます。
新しいデバイスが、「前」からある古いコネクタでも動く。これが前方互換性です。
後方互換性
逆に、USB 「2.0」の機器を、「3.0」の USBポート に挿し込んだ場合、USB「2.0」として動きます。
古いデバイスが、「後」から出た新しいコネクタでも動く。これが後方互換性です。
標準 USB(USB-IF)
標準の USB で定められている給電規格を紹介していきます。
規格の仕様は「USBインプリメンターズ・フォーラム(USB-IF)」という非営利団体(USB の元じめみたいなもの)が決めています。
デフォルト
リリース | バージョン | 電圧 | 最大電流 | 最大電力 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
2000年 | 2.0 | 5V | 0.5A | 2.5W | |
2008年 | 3.0 | 0.9A | 4.5W | 3.1Gen1, 3.2Gen1 と同じ | |
2013年 | 3.1 | 3.2Gen2x1 と同じ | |||
2017年 | 3.2 (Type-C) | 1.5A または 3A |
7.5W または 15W |
3.2Gen2x2 と同じ | |
2019年 | 4 (Type-C) | Power Delivery 対応必須 |
後述の給電規格に対応していない場合、USB はこの動作をします。電圧は 5V 固定、電流はそれぞれの最大値以下になります。
1.5A 以上に対応するのは入力/出力の両方が Type-C のものしかありません。つまり、PC で一般的な Type-A は最大電流が 0.9A または 0.5A のものしかありません。
ただし、この給電はあくまでも「デフォルト」です。後述の給電規格に対応していれば、その規格で動作します。
【おまけ】 USB 3.x が分かりにくい問題
USB 3.0~3.2 は、先ほどの表の「備考」で書いた通り、名前が違っても同じものを指すという非常に分かりにくい状態になっています。
例えば、USB「3.2 Gen1」 は USB「3.0」 と同じ動作であることを意味しています。
3.0と同じ動作 | 3.1と同じ動作 | 3.2と同じ動作 | |
---|---|---|---|
USB 3.0 | 3.0 | - | - |
USB 3.1 | 3.1 Gen1 | 3.1 Gen2 | - |
USB 3.2 | 3.2 Gen1 | 3.2 Gen2x1 | 3.2 Gen2x2 |
Type-C Current
リリース | 種類 | 電圧 | 最大電流 | 最大電力 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
2014年 | 1.5A | 5V | 1.5A | 7.5W | |
2014年 | 3A | 3A | 15W | オプション |
USB Type-C Current(以下:USB-CC)は、コネクタ形状が Type-C の時に使用される最大 15W の給電規格です。電圧は 5V 固定、電流は 1.5A または 3A 以下になります。
先ほどの「デフォルト」にあった USB「3.2」 以降も、この USB-CC に従っています。
ただし、この規格になるのは、入力/出力の両方が Type-C の時だけです。例えば、入力が Type-A、出力が Type-C の場合は、前述の USB「3.1」 以下での給電になります。
逆に、USB「2.0」でも入力/出力ともに Type-C なら、USB-CC が適用される場合があります。(両端が Type-C の USB 2.0 ケーブルもあり得る)
ちなみに、電流「3A」はオプションなので、対応するかは任意。USB-CC でも「3A」には対応していないことがあります。
先ほどの「デフォルト」と同様、この給電は Type-C の「デフォルト」です。後述の給電規格に対応していれば、そちらの規格で動作します。
Battery Charging
リリース | バージョン | 電圧 | 最大電流 | 最大電力 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
2010年 | Rev.1.2 | 5V | 1.5A | 7.5W |
USB Battery Charging(以下:USB-BC)は最大 7.5W での充電ができる給電規格です。電圧は 5V 固定、電流は 1.5A 以下になります。
USB-BC はもともと最大電流 5A に対応していますが、出回っているものはほぼ 1.5A までの対応です。
一時期、Android スマホでよく使われていた給電規格です。
Power Delivery
リリース | バージョン | 電圧 | 最大電流 | 最大電力 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
2014年 | Rev2.0 ver1.0 | 5V | 2A | 10W | |
12V | 1.5A | 18W | |||
3A | 36W | ||||
5A | 60W | ||||
20V | 3A | 60W | Micro-USB の最大値 | ||
5A | 100W | ||||
2016年 | Rev2.0 ver1.2
Rev3.0 |
5V | 3A | 15W | |
9V | 27W | ||||
15V | 45W | ||||
20V | 60W | ||||
5A | 100W | ||||
2021年 | Rev3.1 (Type-C) |
5V | 3A | 15W | |
9V | 27W | ||||
15V | 45W | ||||
20V | 60W | ||||
5A | 100W | ||||
28V | 140W | EPR 対応が必要 | |||
36V | 180W | EPR 対応が必要 | |||
48V | 240W | EPR 対応が必要 |
USB Power Delivery(以下:USB-PD)は最大 240W での充電ができる給電規格です。電圧は 5~20V の範囲で段階的、電流はそれぞれの最大値以下になります。(「Rev2.0 ver1.2」「Rev3.0」以降では、規定以外の電圧・最大電流もオプションで認められている)
ただし、「3A」より大きい電流は、専用の対応ケーブルでないと使えません。(Type-C ケーブルの仕様が最大電流「3A」のため)
また、Rev3.1 以降で追加された「100W」より高いものは「EPR (Extended Power Range)」 と呼ばれ、使用するには EPR 対応のケーブルが必要です。(100W 以下は「SPR (Standard Power Range)」と呼ばれる)
使用される電圧・最大電流は、接続するデバイス(スマホやモバイルバッテリーなど)によって異なり、自動で適切なものが選ばれます。
「Rev2.0」では Type-A・B・C すべてのコネクタ形状に対応していますが、「Rev3.0」以降では入出力ともに Type-C だけの対応です。
2023年9月現在、出回っている USB-PD 商品は、ほぼ Type-C のものばかりです。
ちなみに、USB4 は USB-PD への対応が必須です。つまり、コネクタが USB4 であれば USB-PD による給電を利用できるということです。
USB-PD は、スマホ・ノートPC などで使われることが増えていて、今後普及が進む可能性が高い給電規格です。
まとめ
標準USB の給電には色々な種類があって、なかなか複雑。ざっくりまとめるとこんな感じです。
バージョン・給電規格 | 電圧 | 最大電流 | 最大電力 |
---|---|---|---|
USB 1.1~2.0 (Type-A・B) |
5V | 0.5A | 2.5W |
USB 3.0~3.1 (Type-A・B) |
0.9A | 4.5W | |
Battery Charging | 1.5A | 7.5W | |
Type-C Current (USB 3.2~ も含む) |
3A | 15W | |
Power Delivery (ほぼType-C) |
5~48V | 5A | 240W |
普及については、USB-PD が増えていて、USB-BC は減っています。1.5A なら Type-Cケーブル の USB-CC で十分だからなのかもしれませんね。
Apple
リリース | 種類 | 電圧 | 最大電流 | 最大電力 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
- | Apple 1.0A | 5V | 1.0A | 5W | |
- | Apple 2.1A | 2.1A | 10W | iPhone 6 以降が対応 | |
- | Apple 2.4A | 2.4A | 12W | ||
- | 高速充電 (Type-C) |
9V | 2A | 18W | iPhone 8, X 以降が対応 |
2.2A | 20W | iPhone 12 以降が対応 |
Apple社 の給電規格です。電圧は高速充電が 9V それ以外が 5V で固定、電流はそれぞれの最大値以下になります。
iPhone に標準で付属していた電源アダプター(5W)を使う場合は、Apple 1.0A での充電になります。
「高速充電」は Apple 独自ではなく USB-PD を利用しています。そのため、対応する電源アダプターのコネクタ形状は Type-C だけです。(iPhone に接続する側は Lightning)
Mac も高速充電に対応していますが、こちらも基本的には USB-PD です。
Quick Charge(Qualcomm社)
リリース | バージョン | 電圧 | 最大電流 | 最大電力 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
2014年 | 2.0 | 5V または 9V または 12V |
1.67A または 2A または 3A |
36W | |
2016年 | 3.0 | 3.6~20V (0.2Vごと) |
2.6A または 4.6A |
100W | |
2017年 | 4.0 / 4+ (Type-C) |
3.3~20V (0.02Vごと) |
100W | ||
5V または 9V |
3A | 27W | USB-PD 互換モードで動く場合 |
Quick Charge(以下:QC)は Qualcomm社 の給電規格です。電圧は、QC 2.0 だと3段階で QC 3.0以降 だと可変、電流は最大値以下になります。
QC 4.0 は入出力ともに Type-C だけの対応です。 USB-PD と互換性があり、USB-PD の給電規格としても動きます。
ちなみに、ドコモの一部のスマホが対応している「急速充電2」「急速充電3」は、「QC 2.0」「QC 3.0」と同じものです。
QC については色々調べましたが、仕様と実用で状況が異なるのか、書いてあることがバラバラでした。正直、何が正しいのかよく分からない状態です。
PowerIQ(Anker社)
まず最初に、PowerIQ(以下:PIQ) は給電規格ではありません。色々な給電規格の中から適切なものを選んでくれる Anker社 の給電管理システムのことです。
リリース | バージョン | 対応している給電規格 | 備考 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
USB-BC | Apple 2.4A |
QC 3.0/2.0 |
USB-PD | |||
2014年 | 1.0 | |||||
2017年 | 2.0 | |||||
2019年 | 3.0 | USB-PD は 5V のとき 2.4A しか出ない | ||||
2020年 | 3.0 Gen2 | 「3.0」の問題を改善したもの |
バージョンが進むごとに対応する給電規格が増えます。
PIQ「3.0 Gen2」は、「3.0」の問題(USB-PD の規格を満たしておらず、充電できないことがある不具合)を改善したものです。
使うときの注意点
給電規格を使うには?
これまで書いてきた給電規格は、使用する機器すべてがその規格に対応していないと使用できません。
例えば下図のように、「電源アダプター(給電元)」に「ケーブル」をつないで「スマホ(給電先)」を充電するとします。
電源アダプター(給電元)は「QC 3.0」に対応していますが、スマホ(給電先)が未対応。
逆に、スマホ(給電先)は「USB-PD」に対応していますが、電源アダプター(給電元)が未対応。
結局、「QC 3.0」「USB-PD」での給電はできず、全機器が対応している「USB-CC」で充電されます。
ケーブルには給電規格の制限があまりないですが、ケーブルが耐えられる最大電流を超えると危険です。なるべく、給電元/給電先の機器(スマホなど)に付属・対応しているケーブルを使いましょう。USB-IF 認証を受けた Type-Cケーブル は、3A まで対応しています。
ちなみに、USB-PD の最大電流 5A は対応しているケーブルでしか使えません。未対応のケーブルだと 3A 以下になります。
また、iPhone / iPad の場合は MFi 認証(Made For iPhone / iPad)を受けたケーブルでないと、充電できない場合があります。
電源アダプターの流用
USB の場合は「最大電力」の条件が合えば、他社の電源アダプターを流用しても大丈夫です。
「最大電力」については、「接続するデバイス」の充電のワット数より、大きなワット数を持つ「電源アダプター」を使って下さい。
電気を「水」で例えると、「電源アダプター=ポンプ」「電力=水量」です。小さなポンプ(=小さなワット数の電源アダプター)で無理やり多くの水量(電力)を得ようとすれば、ポンプが壊れる(=発火する)ということです。
例えば、45W で充電する PC に、それより大きな 100W の USB-PD電源アダプター を使うのは問題ありません。
充電に必要なワット数よりも小さなワット数の電源アダプターを使うのは、発火する危険があるので絶対にやめて下さい。
全体のまとめ
今回紹介しませんでしたが、さらに Samsung や Huawei などスマホメーカー独自の給電(充電)規格もあります。USB の給電規格は種類が多すぎて本当に複雑ですね……。
また、使用する電源アダプター,ケーブル,スマホなどの端末すべてが、同じ給電規格に対応していないと高速充電できません。私たち消費者にとっては非常に分かりにくい状態です。
今後は、各社の給電規格が USB-PD にも対応していき、段々と USB-PD が普及していきそうな気はしますが、どうなっていくのでしょう。
最近は「ワイヤレス充電」まで関係してくるので、さらに複雑になっていきそうです……。
私自身もまだ理解しきれていない部分もあります。新しく知ることがあったときは、引き続きこの記事を更新していこうと思います。
コメント
初めまして。
USB-PDがtypeA/Bにも適用されていた規格というのを知り勉強になりました(Rev2.0以前)
主にRev3.0の話だと思いますが、PDはtypeA/Bには存在せずtypeCにのみ存在するラインを使って給電する規格と思っていましたので。
ただ、その前段階の所で「USB3.2以降はtypeCしか存在しない」という表現は大きな誤解を生む表現だと思っています。
その下の【おまけ】でも触れられていますが、USB3.2という規格は、USB3.0/3.1も内包した規格のため、USB3.0の事をUSB3.2と言い張っても何の間違いでもないのです。
つまり、USB typeA 3.0のケーブルの事をUSB typeA 3.2Gen1x1と表現しても正しいため、「USB3.2以降はtypeA/B/Cのケーブルが存在する」ことになります。
重箱の隅をつつくような内容で恐縮ですが、ただでさえややこしいUSB3.X規格を誤解されるような事を減らした方が良いと思いました。
仰るとおり、確かに誤解してしまう人が出るかもしれませんね。
修正しました。